古典文学
江戸の漢詩
投稿日時:2014/05/09(金) 08:26
江戸の漢詩
古文辞から狂詩
「屁臭(へくさい)」…大田南畝の狂詩。
江戸時代中期から後期にかけて活躍した文人大田南畝の狂詩です。
「屁臭(へくさい)」
一夕飲燗曝(いっせきかんざましをのむ)
便為腹張客(すなはちはらはりのきゃくとなる)
不知透屁音(しらずすかしべのおと)
但有遺矢跡(ただうんこのあとあり)
※燗曝(かんざまし)=燗をしたものの、冷めてしまった酒。
※矢=屎、糞便。「遺矢(いし)」で糞尿をもらす意。
意訳:ある日の夕方、“かんざまし”の酒を飲んだら、お腹が張って具合が悪くなった。そこで音も無くスカシ屁をしたつもりが…、気づいたらウンコの跡があった。
この作品の元になった詩が唐詩選にあります。裴迪(はいてき)の「鹿柴」です。
ーーーーー
「鹿柴(ろくさい)」
日夕見寒山(にっせきかんざんをみる)
便為独往客(すなはちどくおうのきゃくとなる)
不知松林事(しらずしょうりんのこと)
但有麏?跡(ただきんかのあとあり)
※麏?(きんか)=鹿の類。
(意訳)夕方、殺風景な山を見て、じっとしていられなくなって独り山中に分け入った。松林に何があるのか知らないが…、気づいたら鹿の足跡があった。
これはまた、なんとすばらしいパロディでしょう!(笑) 両方を比べてみて、思わず感動せずにはいられません!
裴迪の詩の韻律、リズムを生かしているのはもちろんのこと、「鹿柴(ろくさい)」を「屁臭(へくさい)」、「寒山(かんざん)」を「燗曝(かんざまし)」と、読み下したときにもきっちりシャレになっています。元詩の「麏?(きんか)」を「遺矢」に変えて「うんこ」と読ませているところなんか最高です。
大田南畝全集によると、この詩には添え書きがあります。
○西の町のかへり、とうの芋でかんざましをのみ、途中の勝負少々利運をゑて、壱分の女郎を買に、二朱ほどの飯をくひ、腹のいゝあまりにうら心があり、かいばなしにはせんきのせいやら一すかしすかしければ、どうせうね、うんこの跡あり。
ハハハ…、『どうしようね』って言われてもねぇ。うんこの跡は拭くしかないんじゃないのー(大笑い)
ーーーーー
大田南畝(蜀山人・寝惚先生・四方赤良など多数の号あり)は狂歌師、戯作者として有名なほか、狂詩にも文才を発揮しています。特に下ネタや色ネタにおもしろい作品が多いのですが、時代背景の違いもあって解釈するのは難しく、私にはわかったようでわからないものばかりでした。この詩はすこぶるわかりやすくて笑えます。
※参考:大田南畝全集巻1(岩波書店刊)
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