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法学研究(民法家族法を中心として)

【戸籍】最高裁平成25年12月10日決定 [法学研究(民法家族法を中心として)]

投稿日時:2014/05/21(水) 09:53

【戸籍】最高裁平成25年12月10日決定

 
【 性同一性障害者と戸籍の訂正】
・最高裁平成25年12月10日第三小法廷決定
(事件番号:平成25年(許)第5号・戸籍訂正許可申立て却下審判に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件)
URL:http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=83810&hanreiKbn=02


【判示事項】
「特例法4条1項は,性別の取扱いの変更の審判を受けた者は,民法その他の法令の規定の適用については,法律に別段の定めがある場合を除き,その性別につき他の性別に変わったものとみなす旨を規定している。したがって,特例法3条1項の規定に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた者は,以後,法令の規定の適用について男性とみなされるため,民法の規定に基づき夫として婚姻することができるのみならず,婚姻中にその妻が子を懐胎したときは,同法772条の規定により,当該子は当該夫の子と推定されるというべきである。もっとも,民法772条2項所定の期間内に妻が出産した子について,妻がその子を懐胎すべき時期に,既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ,又は遠隔地に居住して,夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には,その子は実質的には同条の推定を受けないことは,当審の判例とするところであるが(最高裁昭和43年(オ)第1184号同44年5月29日第一小法廷判決・民集23巻6号1064頁,最高裁平成8年(オ)第380号同12年3月14日第三小法廷判決・裁判集民事189号497頁参照),性別の取扱いの変更の審判を受けた者については,妻との性的関係によって子をもうけることはおよそ想定できないものの,一方でそのような者に婚姻することを認めながら,他方で,その主要な効果である同条による嫡出の推定についての規定の適用を,妻との性的関係の結果もうけた子であり得ないことを理由に認めないとすることは相当でないというべきである。
 そうすると,妻が夫との婚姻中に懐胎した子につき嫡出子であるとの出生届がされた場合においては,戸籍事務管掌者が,戸籍の記載から夫が特例法3条1項の規定に基づき性別の取扱いの変更の審判を受けた者であって当該夫と当該子との間の血縁関係が存在しないことが明らかであるとして,当該子が民法772条による嫡出の推定を受けないと判断し,このことを理由に父の欄を空欄とする等の戸籍の記載をすることは法律上許されないというべきである。」


【岡部喜代子裁判官の反対意見】
民法772条の推定は妻が夫によって懐胎する機会があることを根拠とするのであるから,その機会のないことが生物学上明らかであり,かつ,その事情が法令上明らかにされている者については推定の及ぶ根拠は存在しないといわざるを得ない。抗告人らの指摘するように,血縁関係は存在しないが民法772条によって父と推定される場合もあるが,それは夫婦間に上記の意味の性的関係の機会のある場合つまり推定する根拠を有する場合の例外的事象といい得るのであって,本件の場合と同一に論じることはできない。以上の解釈は,原則として血縁のあるところに実親子関係を認めようとする民法の原則に従うものであり,かつ,上述した特例法の趣旨にも沿うものである。
 以上のとおり,実体法上抗告人X1はAの父ではないところ,同抗告人が特例法3条1項の規定に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた者であることが戸籍に記載されている本件においては,形式的審査権の下においても戸籍事務管掌者のした本件戸籍記載は違法とはいえない。」


【雑感】
・かなり意外な決定です。1審・2審の判断を覆してまで出すとは意外です。
・ただ,読み方によってはそもそも「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」がおかしいというようにも読めなくはなく,こんな法律を国会が作った以上,戸籍の表示はこうすべきだといっているだけだともいえます。
・特に今回は2人の最高裁判事の反対意見があり,3対2のわずかな差で出た決定です。この事件が第三小法廷以外に係属していれば,別の判断も十分にありえたと思います。そもそもこの問題は法務省がきちんと対応すべきなのにそれを放置してきたという経緯もあり,司法府ではなく立法・行政がきちんと対応すべき問題です。

とある弁護士のブログより http://lawblog.exblog.jp/i2

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