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法学研究(民法家族法を中心として)

性別変更の夫は「父」-----平成25年12月12日産経新聞 1面記事 [法学研究(民法家族法を中心として)]

投稿日時:2014/05/21(水) 08:23

「新たな家族」実態重視 法整備の議論必要

 

戸籍訂正の流れ

戸籍訂正の流れ

 戸籍上の性別を変更した性同一性障害の男性と、第三者の精子でもうけた長男を「父子」と認めた10日付の最高裁第3小法廷決定は、裁判官5人中、大谷剛彦裁判長ら2人が反対意見を述べるなど、僅差での結論となった。多数意見は医療の進歩などで家族の在り方が多様化する中、血縁関係がないことが明白でも、家族としての社会的実態を重視した形だった。

 民法の嫡出推定規定は子の身分関係を早期に安定させるために設けられたとされ、強力な効果を持つ。ひとたび「夫の子(嫡出子)」と認められれば、これを取り消す「嫡出否認」の訴えを起こすことができるのは夫のみ。期間も「夫が子の出生を知ったときから1年以内」に限られる。

 小法廷の議論を分けたのは、性別変更を認めた性同一性障害特例法の「効果」が及ぶ範囲の捉え方だ。

 戸籍訂正を認めた3人は特例法で結婚が認められた夫婦の間の子には通常の夫婦と同様、法律婚の「主要な効果」である嫡出推定が適用されると判断。寺田逸郎裁判官は補足意見で「血縁関係上の子を作ることができない男女に特例で結婚を認めた以上、血縁がないという理由で法律上の父子関係を否定することはない」との解釈を示した。

 一方、反対意見の岡部喜代子裁判官らは「特例法は親子関係の成否に触れていない」と特例法の効果を限定的に解釈した。

 法務省によると、今回の決定の当事者と同様に、性別変更をした男性の妻が実際に出産したケースは、これまで39件を確認。その意味で決定が及ぼす直接的な影響は限定的ともいえるが、平成16年以降、性別変更を認められた人だけで3500人超に上る。法曹関係者の一人は「父子関係が認められないことを理由に、子を持つか悩んでいるカップルに影響が広がる可能性がある」とみる。

 だが、大谷裁判長は反対意見で、今回のようなケースで父子関係を認めれば「現在の民法の解釈の枠組みを一歩踏み出すことになる」と指摘。さらに「本来的には立法で解決されるべき問題に、制度整備もないまま踏み込むことになる」と述べたように、議論が尽くされたとは言い難い。

 第三者からの卵子提供や代理母出産など、生殖補助医療の発展に伴い、現行法の想定しなかった「新たな家族」は次々と誕生している。法整備も含めた早期の議論が求められている。

 ■性別変更申し立て増加

 心と体の性が一致しない性同一性障害をめぐっては、平成16年に性同一性障害特例法が施行され、一定の条件を満たせば性別変更が可能となった。

 司法統計年報によると、特例法に基づく性別変更の申し立ては、16年の130件、17年の243件から24年は742件まで増加。このうち申し立てが認められたケースは、16年が97件、17年が229件、18年が247件と増加の一途をたどり、24年は737件。法施行後から昨年までに計3500人以上が、変更を認められた計算だ。

 一方、法務省によると、男性に性別変更した夫の妻が出産したケースは今月11日現在で計39件、このうち未確認の1件を除く38件は戸籍上、「非嫡出子(婚外子)」として扱われている。戸籍を見れば性別変更が分かるため「生物学的な父子関係がない」として、民法の嫡出推定規定が適用されないためとみられる。

 立命館大学法学部の二宮周平教授(家族法)の話

 「性同一性障害特例法4条では、性別の取り扱い変更の審判を受けた人は、法令適用も『他の性別に変わったものとみなす』と明記されている。この規定に沿った妥当な判断だ。『本来的には立法で解決されるべき問題』との反対意見もあったが、進まない法整備を待っていては、親子関係が定まらないまま、子供の不利益が続くことになる。今回の判断により、性同一性障害の家族が通常の夫婦、通常の親子という考えが一般にも浸透していくだろう」

 東北大学法学部の水野紀子教授(家族法)の話

 「親子関係はさまざまな要素を踏まえて慎重に判断すべきだが、今回の最高裁は形式的な三段論法で結論を出してしまった。性同一性障害者が人工授精でもうけた子供は成長して、父を父と信じられないため苦悩を抱えることになる。将来生まれてくる子供に対する思慮を欠いた判断だ」

 

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