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徒然日記

朝日新聞2014年11月08日朝刊「天声人語」から [徒然日記]

投稿日時:2014/11/13(木) 00:32

朝日新聞2014年11月08日朝刊「天声人語」からの転載 ジャーナリストの確かな目で時代の流れを見続ける看板コラム


原発と人間の寓話

 ある男が美しい妻と仲むつまじく幸福に暮らしていた。ところが、犬に脅かされて妻が狐(きつね)の正体をあらわす――。評論家の故加藤周一さんがかつて、本紙連載の「夕陽妄語(せきようもうご)」でこんな説話に触れていた。「嘘(うそ)について」と題した一編だ。
 狐にだまされていたと知って男は驚く。しかし、だまされていたときの幸福を忘れられず、もう一度化けてくれと頼み、狐も応じる――。類似の民話は各地にあろう。
 狐が化けていた妻を原発に置き換えてみたい。福島の事故で安全神話のまじないは解け、正体が露(あら)わになった。それなのに昔が忘れられず「もう一度化けてくれ」と頼み込む。人の心の機微を突く古い民話は、現代の寓話(ぐうわ)でもある。
 鹿児島県の議会と知事が九州電力川内(せんだい)原発の再稼働に同意した。「地元の同意」を得て歯車は回りだす。経済優先の変わらぬ国政。動かすほど儲(もう)かるという電力会社の変わらぬ意識。地元経済の原発依存も変わらない。そうしたものが渦を巻いて、原発回帰へと日本を流していく。
 住民の避難計画も大きな不安を抱えたままだ。理屈ばかりで役に立たない訓練を畳水練(たたみすいれん)と呼ぶ。畳の上の水泳訓練の意味だが、その「理屈」にあたる計画作りも、国は地元に任せ切った格好だ。
 加藤さんの話に戻れば、もう一度化けた狐の妻と男は、その後幸せに暮らしたという。物語は美しく現実は厳しい。地震と火山の国の原発は、事あれば幾万の幸せをたちまち吹き消してしまう。福島から学んだ、つらい教訓である。

(2014年11月08日 朝刊)


 

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