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法学研究(民法家族法を中心として)

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蓮舫「二重国籍」報道

[法学研究(色々な法学・法律等)] 投稿日時:2016/09/09(金) 07:28


蓮舫「二重国籍」報道はグロテスクな純血主義にもとづく差別攻撃だ! さらにはガセの可能性も浮上 

http://news.biglobe.ne.jp/domestic/0908/ltr_160908_0818815203.html から引用


「二重国籍者に野党第1党の代表の資格があるのか」「他国の国籍を持っている人間がなぜ日本の政治家をやっているのか」「中華民国人を大臣にしていた民進党は責任をとれ」

 

 民進党代表選に出馬した蓮舫参院議員の「二重国籍」疑惑で、保守派メディアやネット右翼が狂喜乱舞して、蓮舫叩きに血道をあげている。

 

 最初に断っておくが、本サイトは「私はバリバリの保守」などと胸を張り、「(安保法を)『戦争法案』と言うのは私はむしろミスリードをする言い方だったと思っています」などというセリフを平気で口にする最近の蓮舫氏の政治的スタンスに対して批判的であり、政治的に彼女を擁護したいとはまったく考えていない。

 

 しかし、この国籍をめぐる炎上事件に関しては、どう考えても蓮舫氏を攻撃している側がおかしい。その行為はむしろ、この国にはびこるグロテスクな純血主義がむき出しになった人種差別としか思えないものだ。

 


■アゴラ・産経の根拠は? 二重国籍はありえないの見方も

 

 その理由を説明する前に事実関係と報道の経緯を簡単に振り返っておこう。蓮舫氏は1967年、台湾出身の父親と日本人の母親との日本で生まれたが、当時の国籍法では日本国籍の取得は父親が日本国籍をもつ場合のみに限られていたため、台湾国籍になっていた。だが、85年、国籍法が母方の国籍も選べるように改正・施行されたため、日本国籍を取得している。

 

 ところが、先月末、元通産官僚の評論家・八幡和郎氏がいきなり、ウェブサイト「アゴラ」や産経系の夕刊フジで、蓮舫氏が台湾国籍を離脱しておらず、日本と台湾の二重国籍のままになっている疑惑を指摘。これに産経新聞が丸乗りして、連日ウェブ版で大報道を展開し、代表選の立候補会見でもこの問題を質問するなどしたため、どんどん騒ぎが大きくなっていったのである。そして、とうとう蓮舫氏サイドが「除籍が確認できない」としてあらためて台湾籍の放棄の手続きを行う事態となった。

 

 しかし、そもそも蓮舫氏が二重国籍、というのは本当なのか。ただ「国籍放棄の確認がとれていない」と繰り返すだけで、八幡氏が最初に疑惑があるとした根拠も、産経がそれに丸乗りした理由も、一切書かれていないため、両者がどういう根拠にもとづいているのかは不明だが、実は蓮舫氏についてはかなり前から、官邸や内閣情報調査室の関係者がしきりにマスコミに「国籍問題」をほのめかしていたという情報もある。

 

 だが、ここにきて、この「二重国籍」疑惑はあり得ない話という見方も出てきている。

 

 時事通信などが7日付で、〈日本政府の見解では、日本は台湾と国交がないため、台湾籍の人には中国の法律が適用される。中国の国籍法では「外国籍を取得した者は中国籍を自動的に失う」と定めて〉いると報じたからだ。読売新聞も7日付の記事で〈台湾籍を持つ人は日本では中国籍と扱われる。法務省によると、中国の国籍法は「中国国外に定住している中国人で、自己の意思で外国籍に入籍、または取得した者は中国籍を自動的に失う」と規定している〉と、同様の趣旨の記事を報じている。

 

 つまり、蓮舫氏が85年に日本国籍を取得していたとすると、そのとき自動的に中国の法令に基づいて台湾籍(中国籍)は失っており、二重国籍というのはありえないことになる。

 

 一方、八幡氏はこうした報道自体を「知識のない記者が聞きかじりで書いた記事」と否定しているが、複数の新聞や通信社が一斉に同内容の記事を書いているということは、普通に考えれば、法務省当局のブリーフィングがあったと見るべきだろう。

 


■そもそも大騒ぎするのがおかしい! 専門家も問題なしの見解

 

 また、仮に蓮舫氏が「アゴラ」や産経が述べるとおり、85年の日本国籍取得の際に台湾国籍を離脱しておらず、結果、いままで「二重国籍」であったとしても、これはそこまで目くじらをたてるような問題なのか。

 

 たしかに、「国籍単一の原則」をとる日本では重国籍は認められておらず、85年施行の改正国籍法には、20歳未満の重国籍者には22歳までに国籍を選択させるように定め、〈選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない〉(第16条)という規定が設けられている。そして、国籍選択をしなかった場合、法務大臣は書面で国籍の選択を「催告」することができ、そのうえで「催告」を受けても1カ月以内に選択しないとき、日本国籍を失うとされている(第15条)。

 

 しかし、実際の国籍法の運用実態はまったく違う。第16条は「努力規定」的な運用しかされておらず、第15条でいう法務大臣による「催告」も、少なくとも施行から16年が経過した2001年の段階まで、法務省は「これまで一度もない」と回答している(柳原滋夫「永住外国人地方参政権問題でクローズアップ 宇多田ヒカルもフジモリ前大統領も 『二重国籍』容認が国を変える」/講談社「月刊現代」01年7月号)。

 

 国籍法に詳しい近藤敦名城大教授も、朝日新聞9月8日付でこう解説している。

 

「日本の国籍法は二重国籍保持者の外国籍の離脱について、努力義務のような規定になっており、より厳格に運用することは現実的ではない。世界的な潮流として複数の国籍を認める国が増えており、知らずに二重国籍のままというケースも多い。仮に二重国籍があったとしても、日本の国会議員、首相や大臣になる上での法的な禁止規定はなく、有権者がどう判断するかだ」

 

 今日の『スッキリ!!』(日本テレビ)でも、やはり国際法に詳しい五十部紀英弁護士がこう解説していた。

 

「日本国籍を選択した時点で、台湾の籍は日本の法上ではなくなるということになります。台湾で国籍が残っているかどうかは、台湾側の判断ということになります。日本においては二重国籍の問題は生じない可能性が高いと思います」

 

 これが国際法の専門家の常識なのだ。むしろ、蓮舫は前近代的な父系血統主義の旧国籍法の被害者と言うべきだろう。

 


■あのK・ギルバートまでが「人種差別」と批判!︎

 

 ところが、「アゴラ」や産経新聞はひたすらこの「二重国籍」疑惑を煽り、"アンチ民進党"のネット右翼たちに火をつけ、ツイッターではいま、蓮舫氏だけではなく重国籍者全体まで標的とするこんな恫喝や虐殺扇動が溢れかえっているのだ。

 

〈なりすましエセ日本人め。日本から出て行け〉〈支那に帰れ!日本人の振りして図々しいチャイナ女〉〈スパイ蓮舫ははやく親元の中国共産党に帰って死刑されろよ〉〈スパイとして射殺出来るように法整備した方がいいよ〉〈逮捕して国籍剥奪して、スパイとして殺処分を希望します〉

 

 いったい何を言っているのだろう。国籍を根拠に「殺せ」などと煽りたてるのはヘイトスピーチ、ヘイトクライムにほかならないし、当たり前だが「スパイ」に国籍は関係ない。しかも連中は重国籍の法的位置づけを問題視しているのではなく、明らかに"日本人ではない"とレッテル貼りをして狂気の雄叫びをあげているのだ。このネトウヨ思想の背景にあるのは、推定68万人いると言われる重国籍者(朝日新聞14年7月6日付)や日本で暮らす非日本国籍者に対する排除の眼差しだ。それは同時に「日本国籍者は国家に忠誠を誓わなければならない」という時代錯誤の国家観を意味する。

 

 しかも、これはなにもファナティックなネトウヨだけの話ではない。こうしたグロテスクな純血主義、差別主義は「アゴラ」や産経新聞にも通底している。たとえば前述の八幡氏は国籍とは無関係に、蓮舫氏をこう攻撃しているのだ。

 

〈村田蓮舫という本名があるのに、頑として村田姓を使わないし、子供にも中国人らしい名前しか付けなかった華人意識のかたまりである〉(「アゴラ」8月29日付)
〈もちろん、違法な二重国籍だったことがないとしても、蓮舫さんには、村田蓮舫という本名を使われないとか、日本文化に対する愛着を示されていないとか、尖閣について領土問題と表現されたように、日中間の国際問題についての見解などに問題があることに変化はない〉(同9月5日付)
〈どの国でも、生まれながらの国民でない人物を、政府のトップにするような物好きな国民はめったにない〉(「ZAKZAK」8月30日付)

 

 結局、「アゴラ」や産経新聞は「二重国籍」疑惑を特ダネ扱いして鬼の首をとったかのように騒ぎ立てているが、その根っこにあるのは純血思想と排外主義、差別主義であることがよくわかる。とりわけ、蓮舫氏の子どもまで「中国人らしい名前」などと標的にし、「華人意識のかたまり」とレッテル貼りをするのは、どう考えても異常だ。日本国籍を取得していたとしても、自分のルーツに想いをはせて子どもの名前をつけることはちっともおかしいことではないし、日本人の中にも大陸由来の名前をつけるケースは決して少なくない。だいたい、政治家や企業経営者などは孔子の論語の一節をことあるごとに引用するが、八幡氏に言わせればそれも「華人意識のかたまり」になるとでもいうのか。

 

 また産経新聞は9月7日付で、インタビューで「二重国籍」を否定した蓮舫氏に対し、〈ただ、蓮舫氏の国籍手続きを行った父親は台湾籍を離脱していないことも明らかにし、「二重国籍」疑惑はさらに深まっている〉などと書いている。しかし、いうまでもなく父親が台湾籍を離脱するか否かは蓮舫氏の国籍選択とはまったく無関係だ。つまり産経は"蓮舫の父親は日本人じゃないから蓮舫も日本人じゃない"と言っているのである。これは完全に"ハーフ"に対する差別である。

 

 つまるところ、こういうことだろう。「アゴラ」や産経新聞にとって、蓮舫氏の国籍法上の疑惑追及は建前で、結局、父系血統主義というイデオロギーをばらまき、血統による差別を正当化しようとしているにすぎない。はっきり言って、「エセ日本人を殺せ」などと叫んでいるネトウヨと大差ないのだ。

 


■テロやスパイの危険性と「重国籍」は無関係だ!︎

 

 しかも、世界はいま、連中ががなり立てる父系血統主義というカルトとは真逆の方向性を打ち出している。事実、重国籍を認めている国はおおよそ半数にも及び、先進国でもアメリカ、イギリス、フランス、ロシア、カナダ、スイスなど欧米を中心にかなりの数にのぼる。重国籍の政治家も珍しくない。たとえば元カリフォルニア州知事のアーノルド・シュワルツェネッガーがアメリカとオーストリアの二重国籍者であることは有名だ。一国の政治のトップでも、ペルーのアルベルト・フジモリ元大統領(ペルーと日本)やタイのアピシット・ウェーチャチーワ元首相(タイとイギリス)などの例がある。加えれば、「イギリスのトランプ」とも言われるバリバリの保守タカ派政治家、ボリス・ジョンソン前ロンドン市長も英米の重国籍者だ。

 

 保守派が主張する"「純血」=「国家への忠誠心」"というのがカルト的な幻想であるのは自明だろう(ちなみに、最近保守論客の仲間入りを果たしたケント・ギルバート氏ですら、今回の件に関してはCS番組で「人種差別に聞こえる」と珍しくまっとうなことを言っている)。

 

 なお、ヨーロッパでは60年代までは二重国籍に否定的であったが、97年のヨーロッパ国際条約では肯定的に変化した。これは、国際結婚やEU国間の自由移動、移住労働者の増加や定住などの現実に即したものだ。また、二重国籍のメリットとしては、諸分野で活躍した者が「母国」に帰国しやすく経済効果をもたらすことや、複数のアイデンティティをもつことで国家間の摩擦を防止することなどが挙げられている。

 

 他方、保守派やネトウヨは重国籍を認めるデメリットとして「テロを誘発する」などと喧伝する。ツイッターでもこのような主張がよく見られた。

 

〈二重国籍はスパイによる情報流出およびテロの危険性が増すのでは?〉〈日本国籍と他国籍を持つ者が、2つのパスポートを使い日本に簡単に入国してテロをする可能性も否定出来ない。この二重国籍問題は大きな問題にするべきです〉〈事実上二重国籍は放置状態であり、従って犯罪、テロ、スパイ、脱税などもやり放題状態だと推測されます。これは安全保障上の懸案事項である以上早急に手を打つ必要があります〉

 

 見当違いも甚だしい。たとえば二重国籍を認めているフランスでは、昨年のパリ同時テロ事件を受けてフランソワ・オランド大統領がテロ関連の罪で有罪になった者から国籍を剥奪する内容を含む改憲案を示し、激しい批判にあった。フランスの歴史人口学者・家族人類学者であるエマニュエル・トッド氏は、朝日新聞のインタビューでこのように断じている。

 

「テロへの対策としてもばかげています。想像してください。自爆テロを考える若者が、国籍剥奪を恐れてテロをやめようと思うでしょうか。逆に、国籍剥奪の法律などをつくれば、反発からテロを促すでしょう」(16年2月11日付)

 

 すなわち、「アゴラ」や産経新聞、ネトウヨたちは、カルト的な血統主義をふりかざすことが共同体の分断を生み、かえって国家を危険にさらすということをまったく理解していないのだ。言い換えれば、蓮舫氏の「二重国籍」疑惑をあげつらって「国家への忠誠心がない」などとほざいている連中のほうこそ、結局、グロテスクな差別主義をむき出しにすることで「国益」を害しているのである。

 


■なぜ民進党は保守派の差別攻撃をはねつけないのか︎

 

 いや、問題なのは、保守系メディアだけではない。党の蓮舫氏や民進党の対応もおかしい。蓮舫氏に対しては、民進党内からも「代表の資格はない」「説明責任を果たすべきだ」などとの声が出ており、蓮舫氏自身も「生まれたときから日本人」などと強調して慌てて台湾政府へ除籍を申告するなど火消しに必死だ。

 

 しかし、民進党は、民主党時代の2009年マニフェストのなかで〈就労や生活、父母の介護などのために両国間を往来する機会が多い、両親双方の国籍を自らのアイデンティティとして引き継ぎたいなど〉の要望を踏まえ、重国籍を認める国籍制度変更の方針を打ち出していたのではなかったか。

 

 本来は、民進党も蓮舫氏もこんな差別的攻撃に弁明する必要なんてまったくなく、寛容な多様性のある社会の構築を打ち出していくべきなのである。それを保守メディアやネトウヨに煽られて「日本人」を強調し、逆に蓮舫氏に説明責任を求めているのだから、開いた口がふさがらない。「二重国籍」云々より、こうした対応のほうが、よっぽど有権者からの信頼を失うことがわからないのか。

 

 いや、民進党のことなんてどうでもいい。問題は時代錯誤で差別的な純血主義のイデオロギーがまるで正論であるかのように、この国全体を覆いつつあることだ。わたしたちはこの差別思想が何よりいちばん危険であることに気づくべきだろう。
(小杉みすず)

民法772条の嫡出推定の気になる記事

[法学研究(民法家族法を中心として)] 投稿日時:2014/10/31(金) 07:59

民法772条の嫡出推定の気になる記事。

http://biz-journal.jp/2014/09/post_5973.html より転載。


戸籍上の父は性行為の日で決まる?DNA鑑定のみで親子関係を決められないワケ  文=江端智一


筆者提供

 こんにちは。江端智一です。

 今回のテーマとしては

性同一性障害の施術で女性から男性になった人は、法律上および血縁上の父親になれるか?
・男性から女性になった人は、赤ちゃんを産むことができるか?

という2点について、最近の裁判例と、iPS細胞などの技術的観点からお話ししたいと思っていました。

 しかし、調べているうちに、この問題を理解するためには、どうしても民法772条の「嫡出の推定」を深く理解する必要があることがわかってきました。そこで、いったん「性同一性障害」から離れて、この法律の内容と、併せてその法律によって生じる「300日問題」についてお話ししたいと思います。

●民法における父の推定

「血は水よりも濃い」「産みの親より育ての親」、この2つのことわざは矛盾していますが、私たちはケースに応じて使い分けます。これは、司法の判断においても同じようです。

 最近は、ここにDNA鑑定という、生物学的な親子関係を確定する技術が登場してきたことで、問題をさらにややこしいものにしています。

「親子」を定義することは大変難しいのです。実際に民法を読んでみますと、この難しさがよくわかります。

 第772条には、次のように規定されています。

第1項 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。

江端解釈「結婚中に妻が妊娠した場合、その子どもの血縁上の父がどこの誰であろうとも、今結婚している夫の子として戸籍に記載する。文句があるなら訴えを起こして取り消しなさい」

「推定」とは、「暫定的に、そうしておく」ことで、「訴えを起こせば、ひっくり返せる可能性がある」という意味の法律用語です。母が出産によって確定的に決まるのに対して、子どもを生む能力のない父の身分は不安定なのです。

第2項 婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

江端解釈「結婚後200日を経過する前に生まれた子の父親は、今結婚している夫の子としては戸籍に記載しない。文句があるなら、夫はその子どもを認知しなさい。離婚後、300日を経過する前に生まれた子どもの父親は、今、誰と結婚していようとも、前夫として戸籍に記載する。文句があるなら訴えを起こして取り消しなさい」

 これが、いわゆる「300日問題」の原因になっています。

「推定される」「推定されない」の2つ以外にも、「推定が及ばない」という状態もあります。これは、事実上離婚状態で性的関係がまったくなかった、DNAで親子関係を否定する検査結果がある、夫が長期海外出張中または服役中などの場合は、772条の要件にピッタリ当てはまっても、推定を受けない場合があります。

 

 それにしても、昔ならともかく、夫の子についてもDNA鑑定の事実だけで確定してもいいのではないかとは思いませんか?

 ところが、DNA鑑定だけに頼ると困ったことが起こるのです。

 仮に、上記の推定がないとすると、いつでも誰でも、法律上の父子関係を否定できてしまいます。例えば、ある資産家が死亡した後に、その遺産を相続する子どもが、親戚からDNA鑑定を強要され、血縁上の親子でないことが確定すると、いきなり相続人の身分を失うことになります。これは、現状の我が国の家族や相続などの制度を根底から揺がせることになります。

 また、このような父子関係に対する疑いを、いつでも誰でも申し立てることができるとすれば、その家庭の中の、特にその子どもの平穏とプライバシーは、風前の灯です。

 従って、父親とされた推定をひっくり返すためには、単なる届け出では足りず、以下のような訴えや調停を行うことが必要になります。

(1)戸籍上の父から、子または母への「自分の子ではない」という否認手続(嫡出否認の手続き)によるもの。「推定される」場合に使える手段で、さらに子の出生から1年以内という制限があります。

(2)子、母、血縁上の父、利害関係人から、戸籍上の父または子への「親子ではない」ことを確認する手続(親子関係不在確認の手続き)によるもの。こちらは、「推定されない場合」に、いつでもできるようです。

●300日問題対策

 さて、ここから、300日問題の話に入ります。

 300日問題は、離婚後300日以内に生まれた子の父親が血縁関係にかかわらず元夫となることで、それを避けるために母親が戸籍上の手続きを取らず、無戸籍の子どもが生じるなどの問題を指します。

先述したように、離婚後300日以内に生まれた子は、母が再婚した夫の血縁上の子であっても(DNA鑑定の結果がどうであろうが)、離婚前の元夫の子として戸籍に登録されてしまいます。たとえ元夫が、「その子、俺の子でなくてもいいよ」と言ってもダメなのです。当事者の合意だけでは、戸籍の内容を変更することはできません。

しかし、元夫が調停または裁判で、「元妻とは、家庭内別居状態だった」などと証明し「推定が及ばない」ことを主張すれば、元夫を父とする推定を覆せる可能性はあります 。

 それでは、なぜ300日問題は発生するのでしょうか?

 それは、その問題解決に元夫の協力が必要となるからです。

 300日問題は、基本的に離婚とセットで発生します。そして離婚は、多くの場合、夫婦間の関係が最悪の状態で破綻することを意味します。そんな相手に協力を求めることは、酷というものです。

そして、この問題を発生させている原因の多くは、家庭内暴力(DV)を振るっていた元夫を恐れて協力を求めないことにあるのです。このようなDV元夫との離婚は、裁判所命令によって成立することが多く、DV元夫が離婚に納得していないケースも多いのです。凶暴な元夫に、自分と子の所在が知られるような協力を求めることは自殺的行為といえるでしょう。

 つまり、母親は子と自分の命を守るために、出生届を出すことができず、子は無戸籍となってしまいます。

無戸籍の子は、住民票も作成されません(自治体によっては発行されるケースもあるようですが)ので、小学校や中学校への就学案内が届かず、入学できない恐れがあります。大人になっても運転免許やパスポートが取得できません。印鑑登録ができず、婚姻届も受理されません。銀行口座もつくれず、携帯電話も自分では契約できません。死亡届も受理されません。生まれてから死ぬまで、自分が存在していることを公的に証明する手段がないため、多くの行政サービスを受けられないのです。

 この300日問題を平和に解決するのは、凶暴な元夫が死亡するのをひたすら祈って待つしかないのが実情です。

このような状況を鑑みて、法務省は2007年5月より、300日問題に限って、医師が「生まれた子は前夫と離婚後に懐妊した」との診断書を添付することで、離婚後300日以内に生まれた子(成人も含む)であっても、再婚後の夫を父とする出生届を認めるとしました。

 

 生々しい話で恐縮ですが、「どの日の性行為でできた子か」を厳密に調べて、それが離婚成立日の前か後かで、戸籍上の父親が切り替わる、ということです。離婚成立前に、配偶者以外の人とのエッチを、どこで、何度しようとも、ここでは問題にはなりません(不貞行為にはなるでしょうが)。問題は「妊娠したのは、どの日の性行為か?」という、その一点のみに集約されます。

 離婚成立日前の性行為による子どもである場合は、たとえ再婚後の夫との血縁上の子であったとしても、これまでと変わらず、戸籍上は元夫の子のまま、ということになります。

 それにしても、「『どの日の性行為でできた子か』を、調べることなどできるのか」と疑問に思い、調べてみました。そして、なんとか以下の一枚の絵をつくりました。

 一般的には、最後の生理の日から14日目くらいを「X日」とします。生理の周期(一般的には28日前後)のちょうど半分の日くらいから導かれているのだろうと思います。ところが、生理が不順な人には、この一般的な推定では不確実ですし、本人の主張だけでは証拠になりません。

 そこで、妊娠8~11週頃に行われる、超音波検査の胎児の体長(頭殿長)で、X日を推定します。この頭殿長は、その胎児の違いに関係なく、概ね同じ値になるもので、かなり正確に(誤差1日単位)妊娠0週を推定できます。そして、これに14日を足したものをX日として、その前後14日間、つまり28日間のどこかが、妊娠した性行為日であると判断するのです。

 その期間の最初の日が離婚の日後であれば、晴れて「推定が及ばない」ことになり、元夫の協力なしで再婚後の夫を父とする嫡出子出生届出が可能となります。

 しかし、実際に計算してみてわかったのですが、この方式で300日問題から救済される人は、かなり少ないと思います。最終月経の第1日目を「妊娠0日」として280日目が出産予定日となるわけですから、「離婚後に妊娠、かつ離婚後300日以内に出産」という条件を満たすことは多くないでしょう。従って、この改正による主な救済対象は、低出生体重児、または早産児のケースといえます。

 そこで、さらに法務省は08年6月、離婚後300日以内に生まれた子でも、再婚後の夫の子であると証明できる場合は再婚後の夫の子とする出生届を受理するという通達を出しました。「認知調停」です。すなわち、元夫の子を妊娠する可能性がないことを証明する書類を提出すれば、再婚後の夫の子と認めるというものです。

 この調停が成立すれば、元夫の協力なしで再婚後の夫の実子として戸籍に記載されることになります。ただし「妻が元夫の子を妊娠する可能性のないことが『客観的に明白である』こと」を証明する必要があります。

 しかし、ここで、私ははたと考え込んでしまいました。

「客観的に明白である」とは、どういうことなのだろうか?

 離婚前に元夫と同居しつつ、別の男性(後の夫)と肉体関係があった場合は、元夫の子を妊娠する可能性を完全には否定できず、「客観的に明白である」ことにはなりません。しかし、DNA鑑定を行い、元夫の子でないことが判明すれば、それは「客観的に明白である」事実になります。

「客観的に明白である」か否かを判断するのは、裁判官でも難しいのではないかと思い、調べてみました。

 その結果、案の定彼らにとっても本当に難しいことがわかりました。それは次回にお話しします。

●まとめ

 では、今回の内容をまとめます。

 今回は、「性同一性障害の施術で女性から男性になった人は、法律上および血縁上の父親になれるか?」を検討する上で、必要となる民法772条について、まるまる一回分を使って説明させていただきました。

(1)母子の関係と異なり、法律上の父子の関係は不安定であるため、法は結婚中に妻が妊娠した場合、その子の血縁上の父が誰であろうとも、今結婚している夫の子と推定して戸籍に記載することにしました。

(2)また、離婚後300日以内に生まれた子についても、その子の血縁上の父が誰であろうとも、離婚前の夫の子と推定して戸籍に記載することにしました。

(3)それを避けるため、母が子の出生届を出さず、無戸籍の子ができてしまうことを300日問題といいます。無戸籍の子は、社会的地位が与えられないまま、生きていかなければなりません。

(4)しかし300日問題は、離婚した元夫の協力が必要となるため、解決に至るのがとても難しく、いくつかの救済措置があるものの、この問題を完全に解消できるわけではありません。

 次回こそは、「性同一性障害の施術で女性から男性になった人は、法律上の父親になれるか?」「男性から女性になった人は、赤ちゃんを産むことができるか?」について、お話しさせていただきます。
(文=江端智一)

※なお、図、表、グラフを含んだ完全版は、こちら(http://biz-journal.jp/2014/09/post_5973.html)から、ご覧いただけます。
※本記事へのコメントは、筆者・江端氏HP上の専用コーナー(http://www.kobore.net/gid.html)へお寄せください。

 


 

 

 

 

「刑法各論②」 2014年10月・11月のスクーリング

[法学研究(色々な法学・法律等)] 投稿日時:2014/10/03(金) 13:43

「刑法各論②」 2014年10月~のスクーリング覚書


開講の日程

2014/10/18(土) 09:30~17:00 初日

2014/10/25(土)  09:30~17:00 2日目

2014/11/ 8(土)  09:30~17:00 最終日


講義の覚書・シラバス

 

科目名 刑法各論②
シラバスNO 1441100134
担当教員 神田 宏
開講年次 3年次

 

授業概要・方法等
この授業では,刑法第二編「罪」に定められた犯罪の個別的な成立要件について, 判例・学説を紹介しながら講述します。
この授業は, 講義の形式によります。スライドショーを素材に講述します。自習用に教科書を指定するほか, 参考書もいくつか指示しますので, これらをもとに予習復習を怠らないことが大切です。

 

学習・教育目標及び到達目標
受講者は, この授業を履修することで,
1)刑法の基本原則および犯罪論体系を踏まえて, 犯罪を類型的に考察し;
2)各犯罪の構成要件要素を条文に則して明らかにし;
3)各犯罪の成立要件に関する主要な判例・学説を説明
することができます。

 

成績評価方法および基準
単位修了試験 50%
中間試験 40%
授業への取り組み(ポップクイズ, ショートテスト, ミニッツペーパーなど) 10%

 

授業時間外に必要な学修
1)授業時間中に指示した課題(レポートやポップクイズなど)に取り組むこと。
2)新聞や雑誌などの犯罪報道に目を通し刑法的問題点を洗い出すこと。
3)ケースブック, 判例集や判例評釈などを通じて判例の動向を調べること。

 

教科書
井田良 『入門刑法学・各論』 有斐閣 定価:2,400円+税
 (教科書は購入済)
配布レジュメ(スライドショー, 判例集)
六法

 

参考文献
井田良『基礎から学ぶ刑事法』(有斐閣)
井田良『刑法各論 第2版 (新・論点講義シリーズ2)』(弘文堂)
前田雅英『刑法各論講義』(東京大学出版会)
斎藤信治『刑法各論』(有斐閣)
山中敬一『刑法各論』(成文堂)
「別冊ジュリスト刑法I 各論 判例百選」(有斐閣)

 

関連科目
刑事法入門, 刑法総論, 刑事訴訟法, 刑事政策

 

授業計画の項目・内容
第1回 刑法各論の概要(オリエンテーション)
第2回 犯罪論の基本原理(罪刑法定主義・補充性・客観主義)と犯罪論体系
第3回 刑法における人・社会・国家
第4回 個人的法益に対する罪 (1) 殺人罪
第5回 個人的法益に対する罪 (2) 傷害罪
第6回 個人的法益に対する罪 (3)逮捕監禁罪・住居侵入罪
第7回 個人的法益に対する罪のまとめ (1) 生命・身体・自由に対する罪の総括
第8回 個人的法益に対する罪 (4) 財産犯総論
第9回 個人的法益に対する罪 (5) 財産犯各論 (1) 窃盗・強盗
第10回 個人的法益に対する罪 (6) 財産犯各論 (2) 詐欺・恐喝・横領
第11回 個人的法益に対する罪のまとめ (2) 財産に対する罪の総括
第12回 社会的法益に対する罪 (1) 放火罪
第13回 社会的法益に対する罪 (2) わいせつの罪
第14回 社会的法益に対する罪 (3) 偽造罪
第15回 国家的法益に対する罪

 


 

20140713「不動産登記法」の単位認定試験問題の解答案

[法学研究(色々な法学・法律等)] 投稿日時:2014/07/12(土) 22:31

7月13日はスクーリングの最終日で、単位認定試験が実施される。

試験は、以下の通りの問題が出題されるとのことで、回答をまとめてみた。

あとは、これを覚えて、答案用紙に記載するだけです。

最近、記憶力が落ちてきていますので、不安なのですが、何度か書いて覚えます。(解答内容は、よく理解してます。)

 


 

20140713不動産登記法の単位認定試験

 

【試験問題】
虚偽な登記の出現を防ぐため、不動産登記法は、登記申請手続きの際どのような仕組みを採っているか説明せよ。

【問題解答】

登記には「公信力」がないとされている。また、権利登記においては、登記官に「形式的審査権」しか与えていない。
このような状況下では「虚偽な登記」の出現は防ぎきれないため、不動産登記法は、登記申請手続きの際に次のような仕組みを採用している。

 

第1に、不動産登記法60条には、登記の「真正」を担保するため、登記義務者と登記権利者の「共同申請」を規定している。
 

第2に、登記申請書に、①登記義務者に「印鑑証明書」の添付提出、②登記権利者に「住所証明書」の添付提出を義務付けている。これは登記申請人らの公的証明書による「本人確認」を通じて、登記の「真正」を担保する目的があると言える。
 

第3に、「登記済証の提出」又は「登記識別情報の提供」を義務付けていることである。従前は「登記済証」が紛失等で提出できない場合は、「保証書」を提出することで処理がされていたが、新法(平成17年度~)ではこの「保証書」制度を廃止した。
「登記済証の提出」又は「登記識別情報の提供」の義務付けは、登記申請時における「登記義務者」=「登記権利者」の同一性の確認を通じて、「なりすまし」による虚偽登記を防止する目的がある。なお、紛失等により「書面の提出・情報の提供」ができない場合は、「事前通知制度」等が設けられている。

 

第4に、申請人以外の者の申請と「疑うに足りる相当な理由」があるときは、登記官による「職権審査」の権利義務の行使が認められている。

 

以上の仕組みを採用して、虚偽な登記の出現を防止しているのである。

 


 

「不動産登記法」スクーリング第1日目

[法学研究(色々な法学・法律等)] 投稿日時:2014/07/05(土) 21:25

「不動産登記法」スクーリング第1日目

 

 初日であったので、手続法である「不動産登記法」のさわりと、「民法176・177条」についての講義。

民法の物権法の復習みたいであった。と言っても、昨年の物権法の講義は、かなり忘れていて、少し思い出した程度。

時々「再学習」しないと、忘れるものである。

昨年の物権法では、「民法177条」規定の、第三者に対する対抗要件となる登記について、よく理解したつもりだったのですが・・・残念。

講師は、弁護士資格を持つ下村先生。

評価は、講義内の小テストと最終の単位認定試験の総合評価です。「落とすための試験でない」とのことですので、全日出席すれば、単位は取得できると考えてます。

まあ、せっかくの機会なので、「不動産登記法」の基本をマスターします。

 


科目名:不動産登記法
担当教員:下村 泰

授業概要・方法等
不動産登記という制度について、その仕組みや手続を民法との関連で、どう理解するかに重点をおきながら制度の意義と構造を学習する。

学習・教育目標及び到達目標
不動産登記という制度のもつ意味を理解し、不動産取引の安全の為に、民法177条が機能する場面を考える。

成績評価方法および基準
小テストと筆記試験の総合評価による。 100%

教科書
齊藤隆夫 『集中講義 不動産登記法[第3版]』 成文堂 定価:3,500円+税

授業計画の項目・内容
不動産登記法と物権法との関連を明らかにし、登記のもつ意味を手続面と実体面から講義する。

第1回 不動産登記の意義
不動産物権変動の公示の必要性、公示方法(対抗要件主義か、効力発生要件主義か)

第2回 表示に関する登記と権利に関する登記
表示に関する登記は、職権主義がとられ、登記官に実質的審査権が付与されている。権利に関する登記は申請主義がとられている。

第3回 登記はいかなる場合に必要か
(1)登記を要する不動産
(2)登記を要する権利
(3)登記を要する権利変動

第4回 登記をすれば、どのような効力を生ずるか(1)
(1)対抗力・・・意思主義と対抗要件主義
(2)権利推定力
(3)形式的確定力

第5回 登記をすれば、どのような効力を生ずるか(2)
対抗力 民法177条の第3者の範囲

第6回 不動産賃借権と対抗要件
民法605条及び借地借家法10条
賃貸不動産の譲渡は賃貸人の地位の移転を伴うか

第7回 物権変動と登記が特に問題となる場面(1)
(1)取消と登記
(2)解除と登記
(3)時効取得と登記

第8回 物権変動と登記が特に問題となる場面(2)
相続と登記(1)相続放棄と登記
(2)遺産分割と登記

第9回 登記と公信力
民法94条2項の類推適用

第10回 登記が効力をもつための要件(1)
登記の有効要件
(実質的有効要件、登記が実体関係と符号しているか)

第11回 登記が効力をもつための要件(2)
登記の形式的有効要件
(1)二重登記
(2)登記申請意思に瑕疵のある場合

第12回 登記はどのように行われるか
申請主義、共同申請主義、登記申請行為の法的性質 登記申請能力(行為能力は必要か)

第13回 不動産登記手続の概説
登記申請の方法、申請情報、添付情報について

第14回 所有権に関する登記
(1)所有権移転、保存、更生、抹消の各登記
(2)買戻権に関する登記

第15回 相続による登記・仮登記
相続による登記の仕方及び仮登記のもつ担保的機能

定期試験


 

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